I
(1)五十音図ナ行第一段の仮名。 歯茎鼻音の有声子音と後舌の広母音とから成る音節。
(2)平仮名「な」は「奈」の草体。 片仮名「ナ」は「奈」の初二画。
II
(副)
〔形容詞「なし」の語幹から派生した語という〕
動詞の連用形(カ変・サ変は未然形)の上に付いて, その動詞の表す動作を禁止する意を表す。 特に, 動詞の下にさらに「そ」「そね」を伴い, 「な…そ」「な…そね」の形をとる場合が多い。

「我が舟は比良の湊に漕ぎ泊てむ沖辺~離(サカ)りさ夜ふけにけり/万葉274」「沖つかいいたく~はねそ辺(ヘ)つかいいたく~はねそ/万葉 153」「床敷きて我(ア)が待つ君を犬~吠えそね/万葉 3278」

III
(助動)
※一※断定の助動詞「だ」の連体形。
(助動)
※二※完了の助動詞「ぬ」の未然形。
(助動)
※三※上代における打ち消しの助動詞「ぬ」の未然形。
(助動)
なく
なな
※四※断定の助動詞「なり」が推量の助動詞「めり」, 伝聞推定の助動詞「なり」などに続く場合, 撥音便の形「なん」となり, その「ん」が表記されなかったもの。
IV
(感)
「なあ」に同じ。

「~, 君もそう思うだろう」

V
(接尾)
〔上代語〕
人を表す語に付いて, 親愛の意を添える。

「せ~」「いも~ろ」

VI
(接尾)
主に時を表す名詞に付いて, それを並列するのに用いられる。

「朝~朝~」「朝~夕~」

VII
(格助)
〔上代語。 奈良時代にはすでに自由な用法がなく, 限られた語の中にみられるだけである〕
名詞を受け, それが下の名詞に連体修飾語として続くことを示す。 格助詞「の」「が」「つ」と同じ用法のもの。 「手(タ)~末」「眼(マ)~かい」「眼(マ)~こ」など。
VIII
(終助)
〔上代語〕
動詞および一部の助動詞の未然形に接続する。
(1)話し手の希望や決意, また, 聞き手に対する勧誘を表す。 …したいな。 …しようよ。

「熟田津(ニキタツ)に舟乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出で~/万葉 8」「馬並(ナ)めていざ野に行か~萩の花見に/万葉2103」「秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りな~言痛(コチタ)くありとも/万葉 114」

(2)聞き手の行為に対する期待・願望を表す。 …してほしい。

「この御足跡(ミアト)八万(ヤヨロズ)光を放ち出だし諸々(モロモロ)救ひ済(ワタ)したまは~救ひたまは~/仏足石歌」

IX
(終助)
動詞・助動詞の終止形(ラ行変格活用には連体形)に接続して, 強い禁止の意を表す。

「決して油断する~」「泣く~, 泣く~」「竜の頸(クビ)の玉取りえずは, 帰り来(ク)~/竹取」「我妹子を早み浜風大和なる我松椿吹かざる~ゆめ/万葉 73」

〔中世・近世には連用形や未然形にも接続することがあった。 「ショセンコノ黄金ヲバシャントモトラセラレ~/天草本伊曾保」「万一うせたりとも物いふな。 顔も見~/浄瑠璃・宵庚申(中)」「さては俺に此の邸へ来(コ)~との言分ぢやな/歌舞伎・富士見る里」〕
X
な【七】
なな。 ななつ。 数を数えるときに用いる。

「い, む, ~, や」

XI
な【何】
「なに」の転, または「なん」の撥音の表記されない形。

「こは~ぞ。 あな若々し/源氏(宿木)」

なに
XII
な【名】
(1)人が認識した事物に, 他の事物と区別するために言葉で言い表した呼称。 名前。 (ア)同じ性質を有する一定範囲の事物をひとまとめにした呼称。

「東から吹く風の~を東風(コチ)という」「いかづちは~のみにもあらず, いみじうおそろし/枕草子 153」(イ)一定範囲の事物に属する個々の物に付けた呼称。 「国の~」「~も知れぬ遠き島」

(2)人の呼び名。 (ア)人ひとりひとりに付けた呼び名。 姓に対して名前。

「生まれた子に~を付ける」「娘の~は花子です」(イ)姓名。 氏名。 「私の~は田中花子です」「~を名乗れ」「~をばさかきの造(ミヤツコ)となむいひける/竹取」

(3)その呼び名とともに世にあらわれた評判。 (ア)よい評判。 名声。

「世に~が高い」「~のある人」(イ)名誉。 「~が傷つく」(ウ)あまりかんばしくない評判。 うわさ。 「~が立つ」

(4)実質を伴わない名称。 (ア)名目。 体裁。

「ホテルとは~ばかりの安宿」(イ)表向きの理由。 口実。 「開発の~のもとに自然を破壊する」

(5)名義。

「会社の~で申し込む」

(6)古く国語の単語分類に用いた語で, 現在の名詞に相当するもの。 室町時代の連歌論書にすでに見え, 江戸時代の国学者富士谷成章もこれを用いた。
挿頭
脚結
~有・り
有名である。 名高い。

「僧綱たち, ~・る持者(ジサ)どもなど召して/宇津保(国譲下)」

~有りて実(ジツ)なし
〔漢書(循吏伝)〕
評判ばかりで実質が伴わない。 有名無実。 名あって実無し。
~が売・れる
世間に名が知られるようになる。 有名になる。
~が立・つ
評判になる。 また, 浮き名が立つ。
~が通・る
世間によく知られている。 評判になる。
~が泣・く
その名に値しない。

「国会議員の~・く」

~に負(オ)・う
(1)名高い。 評判である。

「これやこの~・ふ鳴門(ナルト)の渦潮に/万葉 3638」

(2)名としてもっている。

「大伴の氏(ウジ)と~・へるますらをの伴(トモ)/万葉 4465」

~に聞・く
うわさとして聞く。 また, 評判である。 有名である。

「まことや~・きし寂光の都, 喜見城の楽しみもかくやと思ふばかりの景色かな/謡曲・邯鄲」

~にし負(オ)・う
〔「し」は強意の助詞〕
「名に負う」を強めた言い方。

「~・はばいざこと問はむ都鳥/伊勢 9」

~にそむ・く
その名声に反する。 評判と異なる。

「老舗(シニセ)の~・かない味」

~に立・つ
世に聞こえる。 評判になる。

「~・てる吉田の里の杖(ツエ)なればつくとも尽きじ君が万代(ヨロズヨ)/拾遺(神楽)」

~に恥(ハ)じない
名前や評価を傷つけることがない。

「名人の~ない戦いぶり」

~に旧(フ)・る
古くから有名である。 古くからその名が広まっている。

「ここぞ~・る鈴の森/浄瑠璃・八百屋お七」

~は実(ジツ)の賓(ヒン)
〔「荘子(逍遥遊)」より。 賓は主に対する客, そえものの意。 尭から天子の位を譲られるのを, 許由が辞退したときの言葉〕
名誉は実際の徳のそえものである。 実質のない名誉は無意味なものである。
~は体(タイ)を表す
名はそのものの実体を言い表している。 名と実体は相応じる。
~も無・い
名前が知られていない。 無名の。

「~・い花」

~をあ・げる
世に名声をあらわす。 有名になる。
~を売・る
名が広く知れわたるようにする。

「勝負師として~・った男」

~を得る
名声を得る。 名高くなる。
~を惜(オ)し・む
名声が傷つくのを惜しむ。
~を借・りる
(1)他人の名義をかりる。
(2)口実とする。

「アンケートに~・りた思想調査」

~を汚(ケガ)・す
名誉を傷つけ評判を落とす。 名を辱(ハズカシ)める。

「母校の~・す行為」

~を雪(スス)((ソソ))・ぐ
汚名や悪評を功績をあげることによって消す。 名誉を回復する。

「卑怯者の~・ぐ」

~を捨てて実(ジツ)を取る
世間的な名声を得るよりも, 実質的な利のある方を選ぶ。
~を正(タダ)・す
〔論語(子路)〕
(1)名分を正す。
正名
(2)正邪を判断する。
~を立・つ
(1)〔史記(伯夷伝)〕
名声をあげる。 名をあげる。

「ますらをは名をし立つべし/万葉 4165」

(2)評判をたてる。 浮き名が立つ。

「あるまじき~・ち/源氏(夕霧)」

~を竹帛(チクハク)に垂(タ)る
〔「後漢書(鄧禹伝)」による。 「竹帛」は書物の意〕
名を後世に伝え残す。 歴史書に記録されるような功績を立てる。
~を連・ねる
名前を並べて公にする。

「発起人に~・ねる」

~を遂(ト)・げる
名声を得る。

「功成り~・げる」

~を留(トド)・める
名声を後世に残す。

「歴史上に~・める」

~を取・る
評判をとる。 名声を得る。 名を得る。

「ありありて, をこがましき~・るべきかな/源氏(夕顔)」

~を取るより徳(トク)を取れ
実益の伴わない名声を得るよりも実利を得た方がよい。
~を流(ナガ)・す
名を世に広める。 評判をたてられる。

「末の世に聞き伝へてかろびたる名をや流さむ/源氏(帚木)」

~を成(ナ)さしめる
競う相手に負けて, 高名を得させる。

「宿敵に~しめる」

~を成(ナ)・す
その道ですぐれた人物として有名になる。

「作家として~・す」

~を盗・む
実力がないのに評判になる。
~を残・す
名声を後世に伝える。
~を辱(ハズカシ)・める
名声を傷つける。
~を馳(ハ)・せる
広く知られる。
XIII
な【己・汝】
(1)一人称。 わたくし。 自分。 自分自身。

「常世辺(トコヨヘ)に住むべきものを剣太刀(ツルギタチ)~が心からおそやこの君/万葉 1741」

(2)二人称。 対等もしくはそれ以下の相手に対して用いる。 おまえ。 なんじ。

「吾はもよ女(メ)にしあれば, ~を除(オキ)て男(オ)はなし, ~を除て夫(ツマ)はなし/古事記(上)」「ほととぎす~が鳴く里のあまたあればなほうとまれぬ/古今(夏)」

〔上代には(1)よりも(2)の例が多い。 (2)も中古になると「なが」という形でだけ用いられ, やがて用いられなくなる〕
なれ(汝)
XIV
な【菜】
〔「な(肴)」と同源〕
(1)葉や茎を食用にする草の総称。 菜っ葉。

「~を漬ける」

(2)あぶらな。

「~の花」

XV
な【魚】
〔「な(肴)」と同源〕
うお。 特に食用とするもの。 さかな。

「足日女(タラシヒメ)神の命(ミコト)の~釣らすと/万葉 869」

XVI
な・い
ラ行特別活用の動詞「なる」の連用形の音便の形および命令形。
なる(動ラ特活)

Japanese explanatory dictionaries. 2013.

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